80年の歴史の重み

この建物は、古民家というくくりの中ではそんなに古い物ではないのですが、それ相応の傷みは見受けられます。まず、母屋の傾き。強い台風におそわれる機会の多い鹿児島では、台風からの南東風による長年の圧力で、家が北西に傾きがちなのだそうです。この財部の家も見事に傾いています。

よく見ると左右の柱が北側に倒れています。正面の建具は若干こちらがわに傾いていますし、梁は真ん中が下がっていることが分かります。これだけ変形しても壊れずに建っている姿を見ると、日本の木造建築の技術力の高さを改めて実感します。しかし、このまま放っておくと、やがて柱と梁の接合部がずれて梁が落ち、屋根が傾き、雨漏りが始まり・・・ついには溶け落ちるように崩壊してしまいます。まずこの傾きを治さなければなりません。治すと言っても家の構造体を、押したり、引っ張ったり、して80年分の歪みを戻す作業は簡単な工事ではないことは容易に想像できます。

他に難しいことになっているところはないかな・・・気になるのは囲炉裏の間と米倉の傾きです。写真では分かりませんが、囲炉裏の間は天井が落ちかけているし、米倉の柱は随分陥没してしまっているようです。(後日計測した結果20cmもレベルが下がっている柱がありました)囲炉裏の上の煙抜きの穴から天井を覗いてみると・・・

囲炉裏間の天井裏にこんな梁がありました。。。左奥の端部が梁からはずれて落ちています。その結果、梁の上の束が浮き上がってしまっていますね。これでは天井も落ちてくるわけです。囲炉裏間の隣の米倉はもっと状態が悪く、建っているのが不思議なくらいの状態です。

外観を見て回るとやはり北側と杉の木立によって日差しがあたりにくい東側の傷みが目立ちます。母屋の東側は、長年の改装工事?の結果つぎはぎだらけ。どこがオリジナルの壁なのかも分かりません。近年設置された北東角のトイレ上部からは雨漏りも見られます。

土壁がないこの家は、驚いたことに、杉の板1枚で外装と内部の仕上げ?を兼ねています!!(沖縄の古民家も同じような造りです)暑さをしのぐことを一番に考えての納まりですから、なにしろ薄くて頼りない外壁です。逆に適当に修理しようと思えば簡単に修理ができるわけです。その結果、つぎはぎだらけの外壁になってしまったのでしょうか?南側の縁側も近年作り直したようで、構造材の素晴らしさとは裏腹な材料と納まりになっています。

多分傾いた母屋に合わせて修理された縁側です。母屋の傾きを治すと言うことは、縁側の柱の位置と長さも変えなければなりません。う〜ん。。。考えれば考えるほど大工事になってしまう・・・ふっと目を上げると今まで気がつかなかった不思議な光景が目に飛び込んできました。

この写真は玄関の内側から撮影していますが、玄関の建具上の欄間にはガラスが入っていませんね。そして目の前の空間は、あっぱれ!という勢いで外部とつながっています。というか、この家って、内も外もないじゃん!! 日本の少し古い家に住むと、冬場の隙間風に悩まされます。しかし、この山の家はスキマもなにもないのです。家の中が外なんです。

まったく驚きの連続です。さらにビックリしたのは、この家に15年前まで暮らしていたのは、90にも近いおばあちゃんだったということです。それも一人っきりで暮らしていたというのです。

昔の人は凄すぎます。そして80年というの歴史の重さ、それを受け継ぐことの大変さを感じるのでした。