宮城県の大崎市の事業で小中学校を回る環境授業の合間に、鳴子温泉にある、温泉の排熱を利用して、生ごみからメタンガスを発生させる手創りのプラントを見学する機会に恵まれました。この施設は東北大学大学院農学研究科の多田千佳先生のもとで行われているもので、今年の7月にオープンしたばかりの施設です。
「側面の四角い穴から見えるのが温水配管、その外側に断熱材」
周囲の温泉宿や民家から出る生ごみを発酵させて液肥とメタンガスを取り出す装置、今まで、家畜の糞尿からメタンガスを取り出す簡易な装置などが途上国向けに支援された取り組みなどがありました。また、埼玉県小川町のNPOふうどさんの取り組みも有名です。
「液肥タンク」
今までの取り組みと、ene・cafe METHANEの違いは、施設がカッチリ組み上げられていて目で見て分かりやすい!ということでした。そして、現場の管理をされている鈴木研究員が地元の方々と協働で手創りしたというところにも魅力があります。
「ドラム缶製のガスタンク、内側の小さいタンクにガスが溜まる、大きなタンクの中には水が入っている」
鳴子に作り上げた施設は、測定器なども設置されていて一見難しそうに見えますが、原理を聞くと難しくはありません。発酵槽に生ごみを投入し、温泉排熱で微生物の働きを活性化させて、ガスと液肥を作ります。硫化水素を含むガスは、脱硫装置を経て、ドラム缶を重ねあわせたような形のタンクに貯められます。
「発酵槽の真上に設けられた生ごみ投入口、ゴミの量を計測して記録してから投入する」
この過程で、動力を使っているのは温泉排熱を送り込む部分のみ、というのも魅力的です。ガスは発酵槽で生み出されるガス圧だけで、脱硫装置を経てタンクに溜まります。タンクから先は、ガス圧とタンクになっているドラム缶の重さでカフェのキッチンまで送られているそうです。動力部分が少ないというのは効率的だし、故障も少ないと考えられます。
「手創りの施設と鈴木研究員」
研究員の鈴木さんはもともと家畜の糞尿からのメタンガス製造などに関わってきて、3年前から鳴子温泉の一連の施設の研究と制作を担当されているそうです。温泉の排熱を利用し、地域の人と一体になって事業を進められるのが魅力だと話してくださいました。
「とても嬉しそうに説明をしてくださる鈴木さん、彼の人柄もこの研究成功の大きな要素だと思いました」
この施設が「生ごみ=資源」という公式とともに、全国の小さな地域に分散して存在するような、社会システムの構築に一役買えたら嬉しいとのこと。見学大歓迎だそうです。
「カフェ内部」
ene・cafe METHANEの名前の通り、プラントの脇にはカウンターだけの小さなカフェが併設されています。会員登録をして、生ごみを持参してくださった方には、発生したガスでお湯を沸かして煎れたお茶を無料で提供しているとのこと。カフェ内の暖房や給湯(沸騰にはメタンガスを活用)にも温泉排熱を上手く活用されていました。それも、地元の人達の手創り装置で実現しています。
「液肥には成分が書かれた紙が添付されていました」
発酵槽内部の温度は37-38度(30度以下、45度以上では菌の活性が落ちる)という条件で運用し、15kgの生ごみからおよそ2㎥のガスを取り出すことができるそうです。また、発酵槽こそFRPでの特注となっていますが、他は、ホームセンターで購入できる資材で制作したそうです。よく見ると、見たことがある部品が多用されています。
脱硫装置は酸化鉄を使えば作れるそうで、錆びた鉄くずを細かくしたものをフィルターにすれば代用できるとのこと。排熱と生ゴミさえあれば、手創り可能!という夢の様な再生エネルギーです。山のツバルは温泉がありませんが、夏場は太陽熱温水器、冬場は薪風呂や薪ストーブからの熱交換で、運用できそうな規模です。
「カフェに隣接した足湯、高めの湯温とフワフワ浮かぶ湯の花、気持ちよかったです」
また、農家が多い地域では、廃棄しなければならない野菜も多いので、それを粉砕して活用すれば、地域ぐるみでの再生エネルギー活用なども可能になるかもしれません。
「足湯の隣には誰でも温泉卵を作れる機器も設置されていました」
近い将来、山のツバルでも是非導入したい技術だと思いました。こういう技術や人に出会えると、やる気エネルギーもいただけて嬉しい限りです。鈴木さん、そして素敵な機会を作ってくださった大崎市役所の皆さん、本当にありがとうございました。
ene・cafe METHANE
大崎市鳴子温泉字新屋敷67-7
営業時間 9:00-16:00 毎週金曜日、第2第4日曜日はお休み
お問合せは 東北大学大学院農学研究科まで 0229-84-7395