台風12号が九州上陸か?という9月3日、鹿児島市内で行われたNUMO主宰の「地層処分セミナー」に参加してみました。公募された参加者は50名。天候が悪いにもかかわらず欠席したのは数名のようでした。対して、NUMOのスタッフは総勢16名。プレゼンテーションの後、各テーブルにNUMOのスタッフ2名が座って、質疑応答をするというワークショップスタイルです。
前提として、このセミナーの概略をまず紹介しておきます。
- 主 宰:NUMO(原子力発電環境整備機構)
- 目 的:高レベル放射性廃棄物の地層処分の安全性、段階的な処分地選定について考える
- 参加者:一般公募による50名
- 内 容:1,映像による地層処分の概要紹介 2, NUMO、専門家等による説明 3,質疑応答
- 専門家:谷 和夫(東京海洋大学 学術研究院教授) 宇都 浩三(産業技術総合研究所)
- 後 援:経済産業省・資源エネルギー庁、日本経済団体連合会、日本商工会議所、経済同友会、全国商工会連合会、電気事業連合会、九州電力株式会社
- チラシ http://www.chisou-sympo.jp/seminar/doc/about_kagoshima.pdf
参加した50名は原発反対運動などでよく顔を合わせる人ばかり。少人数なので関係者の強制参加はなさそうです。マスコミも数社取材に来ていました。後援に九電の名前も入っており、会場には軽い緊張感が漂っています。
このセミナーの前置きとして心得ておきたいことは、まず、NUMOは2000年に公布済みの「特定放射性廃棄物の最終処分に関する法律」に基いて設立された法人で、「原子力発電により発生する使用済燃料をリサイクル(再処理)する過程で発生する、高レベル放射性廃棄物(ガラス固化体)等の最終処分(地層処分)事業を行なう」ことがこの法人の役割です。
このように役割を法で定め、限定することで、法人の決定権を分散し、官僚の支配下に置く手法は、設立後の天下りも含めて、官僚の十八番です。
NUMOの場合は、六ケ所村、もしくは、海外でリサイクル処理後に生産される、ガラス固化体(高レベル放射性廃棄物)の処理、それも地層処分事業に特化した法人なので、その前後のフローに関しては、判断も決定も検討する権限は持たされていません。
なので、本来であれば「高濃度放射性廃棄物を処理するだけの機構」という名前にすれば紛らわしくないのです。
NUMOの仕事を、カツ丼を作る という一連の作業に置き換えると、その料理の中で「卵の殻の廃棄方法のみを考えている」とすると分かりやすいですね。なので、NUMOの社員に対して、「何故カツ丼を作るのですか?」や「もっと美味しいカツ丼は作れなかったのか?」という異議は、ほとんど意味がありません。なぜなら、彼らは、法律で定められた「卵の殻の廃棄」という仕事を法律にそって進めることしかできないからです。
カツ丼を作った後の玉子だけの廃棄をする株式会社 なんていう馬鹿げた会社は存在しませんが、原子力ムラにはこの手の機構がゴロゴロしています。それが利権を生み出し、原発を止められなくしている一因であることは、今回のセミナーを見ても確かなことです。
そのようなセミナーに出るのは、そもそも、バカバカしいのですが、原子力ムラの社員を観察できる機会もなかなか無いので、参加してみました。
最初の映像は、当たり前ですが、推進主体が、推進する目線だけに絞った上で作られていますから、ボーッと見ていたら、地層処分も良いんじゃない?と思わせる内容です。その後のNUMOの社員からのディティールの説明は、そもそも、原発には反対です!という大意を、重箱を突く議論に摩り替えて行こうとする意味では有効でしたが、反対側や他のアイデアの同等な説明がない中では、アンフェアーで良い印象は残りません。
今回は10人毎に参加者がテーブルに付き、質疑応答の際には、2人のNUMO社員がそれぞれのテーブルに同席して質疑応答を行うというスタイルでしたが、これが、そうとう考えられた手法だと感じました。
参加者を50人に抑えた理由は、ワークスタイル方式にして、大きな会場では質疑ができない人にも議論に参加してほしいから。ということをNUMO側は説明していましたが、参加者を50名に絞ることで、将来、障壁となるであろう、原発反対派のコアメンバーを集め、そして、彼らの切り口を収集して、今後の理論武装に活かす材料にしたい。という思惑があると思います。というか、その為に開催していると考えて間違えないでしょう。参加者をテーブルごとに分割することで、室内での参加者全体の結束をさせない効果もあり、成功していると感じました。
ここまで考えながら、質疑応答に望みましたが、やはり、原発が動き続けているなかで、廃棄物の方法だけを考えるのは、あまりにもバカバカしい。まず、原発を止める努力をNUMO自体も行わなければ、処分地の住民感情を逆なでするだけだという議論は、各テーブルで当然のように出ていたようです。僕も、その点は特に強調して意見しました。
そもそも、嘘と利権と裏切りに満ちた原子力村において、NUMOだけが信頼を得られると考えるほうがナンセンスです。しかし、社員はそのような市民感情は気にしない様子で、親しみを込めて一生懸命質問に答えています。その努力はサラリーマン的には評価されますが、人としては滑稽な印象が残ります。
NUMOには大きな矛盾があります。日本人が運営しているとは思えないほどの問題を露呈している「もんじゅ」を筆頭に、ガラス固化体を安定生産できない六ケ所村を含む、核燃リサイクルが止まれば、NUMOの存在価値は無になります。また、今後20年かけて、数百億の予算を費やして処分地を探した結果、候補地を選定できなかった。という可能性も0にはできません。
そう考えると、NUMOそのものが官僚のいつもの無駄使い事業だと考えるほうが適切です。そもそも、電力会社も経団連も経産省の官僚も、本気で地層処分をしようとは考えていないかもしれません。数十年、検討しているような姿勢を見せて、天下り先を確保し、金を関係先にバラまくことができれば、それでいい。そんなことのために105名の従業員を雇い、87億6500万円(2016年度決定)の年間事業予算を無駄に使いつづけているのかもしれません。
年間87オクエン!ですよ!すごい利権です。
しかし、すでに山積しているガラス固化体以外にも大量にある廃棄物をどうするか?という問題は依然として存在しています。原発は一刻も早く廃炉にする!この考えに矛盾はないし、議論の余地もありません。しかし、その廃棄物に関しては、1万年先に託すような無責任な夢物語ではなく、放射性廃棄物の放射を止めて無害化するような技術開発などに力を入れるべきだと感じました。