自然農でお米を作り始めて8年がすぎました。最近、自然農の稲作ってどのように行うのですか?とか、無肥料、無農薬でもお米が育つのですか?などなど質問をいただく機会も多いので、8年間、積み重ねた経験をまとめておきたいと思います。
【1】苗作り
4月中旬に昨年収穫したモミを浸水して催芽します。1反5畝の作付けに対して、計量カップ摺り切り2杯分のモミで十分な量があります。浸水して浮き上がったモミは、中身が入っていないかすごく小さいので、この時点で選別します。
4月1日に種下ろしを試みたこともありましたが、田植えを早めるとイナグロカメムシの被害に遭いやすくなるので、4月中旬の種下ろしにしていますが、毎年気候が変動しているので、これが正解とは言い切れません。
この後、ボールをお風呂場などの少し暖かい場所に置いておくと、催芽を早めることができます。(写真は4月14日撮影)
おおよそ2週間で写真のように発芽します。(写真は4月26日撮影)発芽と言っても根の先端が出てきているだけです。これがあまり伸びてしまうと、種下ろしがやりにくいので「ハトムネ」と呼ばれるこの形状が理想的です。
「山のツバル」では、田んぼに苗代を作らずに、育苗パレットで苗作りをしています。
発芽したモミを育苗パレットに下ろします。20×10=200穴のパレットを使っています。中に入れる土は、そこらへんの山土+落ち葉を集めてきて作った腐葉土+市販の籾燻炭です。
慣行農法では苗を作るときに、土の消毒+殺菌、そして農薬混入を行いますが、もちろん自然農では一切の消毒、農薬使用はありません。
ただひたすらモミをパレットの穴においていきます。その後、ふるいにかけた粒が揃った土を薄めにかぶせて種下ろしは終了です。
パレットは1週間おきに10枚程度作って、プールに保管していきます。自然農の田植えは時間がかかるので、苗も順を追ってに出来上がってきたほうが都合がいいからです。
パレットを作った後は、庭に育苗用のプールを作ってそこにパレットを並べておきます。パレットが35枚収まる大きさです。プールはビニールハウス用のシートを使って作っています。プールに張る水は雨水タンクからの雨水を使います。
プール上部の屋根は、雨がパレット表面に降らないようにするためのもので、昇温する目的はありません。逆にあまり温めてしまうと、お米の根が浮き上がってしまうことになるので、内部の気温が26度を超えないように管理することが大切です。
1週間ほどで土の表面に芽が出てきます。(写真は5月3日撮影)
このようなグラデーションになりながら成長していきます。
このくらいの大きさになってくると、土の栄養が不足してきて黄変してくるので田んぼに移植します。(写真は5月29日撮影)
【2】田植え
自然農を一般向けに改良して普及に努めて来られた川口由一さんがお勧めする方法では、田んぼは耕さずに、冬草が生えた状態で、それを押し倒しながら田植えをしていく。のですが、山のツバルでは田んぼの草を草刈機で借り倒すところから田植えが始まります。
この方法にたどり着くまでには紆余曲折あったのですが、その理由として
- 南九州特有のシラスまじりの乾田で、土質が非常に硬く、不耕起の圃場の表面にクワで穴を掘りながら、イネを一本一本植えていく作業が不可能と言っていいほどハードで、この作業を1ヶ月続けた結果、骨格が歪んでしまったこともあったほどでした。
- 集落の一番水上で、山からの湧き水を使える立地なのですが、山裾にあって日当たりが悪く冷温なので、田苗代にしても苗が大きく育たずに、移植後に雑草に負けてしまう。
この2点が大きな理由です。
雑草はできれば根本の成長点の下から刈り倒します。泥や水が飛び散るのでエプロンは必須です。また、石油系の廃棄物を圃場に入れたくないこと、農作業から排出する二酸化炭素を減らすこと、臭い排気ガスとうるさいエンジン音が嫌い!などなどの理由で、充電式草刈機を使用している都合に合わせて、草刈機の歯にも工夫が必要でした。
電費が良くて水や泥が跳ねにくい歯として「水際の達人」を使用しています。
えっ!!草と虫を敵にしないのではないですか?と言う質問がでそうですが「草と虫を敵にしない」をキャッチフレーズ化した川口由一さんは同時に「我が生命を営むためには、虫を殺し、生きている作物を殺して食べる」ことを、もちろん認めています。命をつなぐためには、適正な目的のための最小限の殺傷はあって当たり前なのです。
刈り倒した草は苗を移植する列の間にまとめていきます。地味で面倒くさい作業ですが、この雑草を積み重ねていくことで、土の表面に腐食の層を作り、その中の細菌や微生物が作り出すミネラルや窒素分などでお米を育てるのが、自然農の要の部分ですから、列間に草を敷き込んでいく作業はとても大切です。足りない部分には、畔の草を払って敷き詰めたりもします。この草の帯があることで、その部分の春草や夏草が生えにくくなると言う効果も多少はあると思います。それよりも苗の移植後に深水にして管理するほうが、雑草対策としては有効です。
いよいよ苗を移植します、ここでも山のツバルでは工夫をしています。列間に定間隔の穴を開けるための道具「ウエボー」を使います。右側が最新版です。爪と爪の間隔は50センチ。これを土のうえで踏んづけて穴を開けて、その穴にパレット苗を移植していきます。
この作業は2人で行ったほうがスムーズにできます。一度に2列分の穴を開けて、その後に苗の移植をします。
移植後の苗です。圃場に下ろすと頼りないほど小さいですが、問題なく成長していってくれます。
1週間ほどで1反の田んぼへの移植が終わります。ウエボーを使わないで移植していた時は1ヶ月かかっていましたので、相当な時短になるとともに、体への負担も激減しました。体に良いお米を作るために、体を壊してしまったのでは本末転倒です。(写真撮影6月4日)
備忘録:上の段11パレット×200穴=2200 下の段24パレット×200穴=4800 合計7000本
水が入って10日目の写真です。苗の根がようやく活着したところです。(写真撮影6月15日)
【3】草刈り
さらに10日後、苗が成長し始めていますが、周辺の草の勢いも盛んになってきています。このまま草を放置しておくと、苗が草に負けてしまうので、草の状況に合わせて草刈り作業を始めます。(写真撮影6月25日)
田植えから1ヶ月程度の様子。一切の農薬を使わない自然農の圃場では雑草が勢いを見せるころです。イネの苗も大きくなってきていますが、苗と雑草との区別がつきにくい感じになってきています。(写真撮影7月12日)
苗を傷つけないように丁寧にカマで手刈りをします。草刈りを終えて、圃場に透明感が出ました。しばらく安心です。
この季節になると高温多湿の中で田んぼに屈み込んでの作業となるので、暑いし、節々が痛くなる、とても大変な仕事です。除草剤使いたくなりますよね。。。しかし、それをしてしまうと圃場の中の細菌や微生物、昆虫、etcが全部死んでしまって、死んだ田んぼになり、肥料を入れないとイネが育たない環境になってしまうので、除草剤や農薬は使えません。
農薬は残留しないと言っても、基準値を設けての話ですから、残留が0ではなく、役人が適当に決めた残留基準値程度の農薬がお米の中に残ってしまう可能性もあるわけです。
この頃になると、稲の根本にイネを主食とするイナグロカメムシが発生します。冬場、山の中の枯れ葉の下などに隠れて冬眠して、梅雨の時期になると出てきて稲の根本の汁を吸うと言う厄介な虫です。これは草刈りの合間に見つけたら「テデツブース」と言う途方もない対応をします。
慣行農法では箱苗に3ヶ月分の農薬を添加した土を使うので、田植え後3ヶ月は防虫剤が必要ないようです。しかし、この時期からウンカなども出始めるため、下流の田んぼでは農薬散布が始まっています。
一回目の除草から2週間もすればこの有様。早速二回目の除草作業に入ります。(写真撮影7月31日)
二回目の除草を終えた様子。この後は夏草の勢いも衰えてきて、稲の成長に追いつかなくなるので草刈りの必要はなくなります。(写真撮影8月07日)
肥料を入れない自然農の田んぼでは、イナグロカメムシ以外の害虫の影響は大きくありません。ウンカは寄り付きません。また、バッタも生育に影響するほど害を与えません。
窒素が主原料の肥料を与えると、植物が水を吸収するスピードを高めることができます。つまり、急速に水膨れをさせるわけですが、そうすると成長が早く実も大きく鈴なりになりますが中身の栄養分は薄くなります。また、茎や葉が弱くなる上に、窒素分が虫を呼び寄せてしまうのでしょう。ウンカの集中攻撃で田んぼに丸い穴状に稲が枯れてしまう症状も見ることができます。それは困るので、ウンカを殺す殺虫剤を撒き散らします。田んぼの水に溶け込ませて、稲に吸い取らせるタイプの毒薬や、葉の裏まで散布するために細かい霧状にして噴霧するタイプなど、色々あります。
どれも生体を殺すことを目的とした毒ですから、体に入れば害が発生することは容易に想像できます。
田んぼに撒き散らした毒は、その後、用水路から川に流れ、魚が吸収する分もあるでしょう。そのまま海に流れ出る毒もあると思います。かくして日本の近海の漁場は衰退していく一方となっています。
2回目の除草を終えて2週間もすると出穂が見られます。人差し指ほどだった苗が10株ほどに分蘖して穂をつける姿は、見事としか言いようがありません!(写真撮影8月27日)
穂が出ると、その穂にたかる斑点米カメムシと呼ばれる細長いカメムシが飛来します。このカメムシも肥料によって水膨れした稲の穂が好きなようで、自然農の稲穂にはあまり多く付きません。カメムシが稲穂にたかって汁を吸っても、お米の粒に小さな黒い斑点ができるだけなので気にせずに放っておきます。しかし、慣行農法では、お米に斑点がつくと等級が下がり、農協での買取価格も下がるので、農家は必死で虫殺し毒を撒き散らします。
慣行農法は完成された完璧な悪循環なのですが、それで長年やってきた年寄りが、いきなりそれを止めることは難しいこともわかります。この先、集約して機械化を進める中でも、この悪循環は続いていくことでしょう。日本の自然環境は農薬という名前の毒で汚染され続けていくのです。
出穂した後は、受粉の邪魔になるので人間は圃場に入らないほうがいいようです。畔の草刈りなどをしながら実っていくのを見守ります。
【4】水の確保と管理
無農薬を徹底するためには、田んぼに入れる水には他の田んぼの水が混入しないことが大切です。そのため、集落でも一番水上の田んぼを借りています。しかし、用水路よりも上にあるため、用水は使用することができません。
山から湧き出す清水を堰き止めて水を貯めて、それを田んぼまでホースを引いて運びます。強めの雨が降ればすぐに土砂で埋まってしまう小さなダムです。月に一回は点検をして泥を取り除いたり、堰の石積みを直したりと手間がかかります。しかし、完全な山の清水を田んぼに流し込めると言う利点は、何物にも変えられないことです。
田植え直後は、圃場の水温は高めで深水管理が理想だと思います。水温を高めにすれば分蘖が進み、収穫アップにつながります。また、深水にすると雑草の繁殖防止になるので、稲の成長を助けることにもなるし、草刈りの手間を少し減らすことができます。
しかし、田植え直後の梅雨の時期に、深水を高温にするのはとても難しいことです。こまめに水を出し入れして調整することが収量アップにつながりますが、自分たちが食べる分だけ収穫できれば良い。と言うスタンスであれば、収量アップを目指す必要もないので、そこそこ適当にやっていれば良いということもあります。
【5】稲刈り
出穂から1ヶ月後の田んぼの様子、稲穂が垂れてきています。稲刈りまで半月を残すばかり。通常はこの辺りで大きな台風に襲われて、稲が倒れてしまうのですが、今年はどうでしょうか?心配な季節でもあります。(写真撮影9月27日)
ツバルへの出張があったりして、この年は稲刈りが半月遅れとなりましたが、台風被害や動物の被害などもなく無事に稲刈りの日を迎えることができました。(写真撮影10月30日)
自然農を始めた本来の目的は、二酸化炭素を出さない農業に取り組みたい!と言うことです。ですので、田植えも稲刈りも当然手作業で行います。一株ごとにカマで丁寧に刈り取っていきます。田んぼの中では、うるさいエンジン音や、臭い排気ガスは邪魔なだけです。
片手で握れるくらいの太さを目安に束にして。2束の根本を交互に重ねて置いていきます。
それを昨年収穫した時に保存して置いた稲藁で縛ってまとめます。
最後に竹で組んだ竿にかけて稲刈り終了です。1反の稲刈りは1週間ほどで終了します。この後、2週間ほど掛け干しをします。掛け干しはモミを乾燥させる意味合いもありますが、茎の中の栄養分を最後の一滴までお米に移していくとても大切な時間です。
掛け干しをしたのとしないのとで味比べをしたことはありませんが、何事も手間暇かけて行ったほうが良い結果が出るというのも事実だと思います。
圃場の全景です。左が5畝、右が一反の面積があります。
【6】脱穀
脱穀ももちろん手作業です!昔ながらの足踏み脱穀機と唐箕を使って行います。(写真撮影11月12日)
脱穀の様子はこんな感じです。
手間がかかりますが、それぞれの音がいちいち気持ちが良いのです。慣れてくれば1反分の脱穀は3日程度で行うことができます。
最近はコンバイン化が進んでいて、稲刈り〜乾燥〜脱穀と言う一連の作業を田んぼの上で巨大な機械が一瞬のうちに処理してしまいます。コンバインで刈り取ると、田んぼの中のバッタやカエル、ヘビ、ネズミetc を一緒に刈り込んで乾燥させてしまうので、気持ちが悪い。と言っていた農家の爺さんがいましたが、そう言いながらも彼の田んぼもコンバインで稲刈りをしていました。
この時代に本当に安全で良いものを食べたい!と思うのであれば自分で作る以外に方法はないかもしれません。
モミを浸水してから7ヶ月!ようやく新米にありつけました。(ちなみに精米はさすがに機械で行います)
無農薬の安心感、二酸化炭素も排出していないと言う目的達成感、なども相まって、言葉にならない味です。
1反からモミで180kg程度しか収穫できない、肥料などでも水膨れしていない栄養がぎっしり詰まった超貴重米です。家族とごく親しい人と分け合っていただきます。
モミから新米までの長い旅でしたが、お付き合いくださいましてありがとうございました!
※この後、お米はモミのまま保管します。梅雨時になると小さいガが湧いて来たり、カビが発生したりするので、モミをお米袋に入れて、それを布団圧縮袋に入れて、脱気した状態で保存します。圧縮袋の中にホッカイロを入れておけば、脱酸素もできるので、さらに安心して保管できます。
この状態で保管した7年前のモミを精米して食べてみましたが、問題なく美味しく食べることができました。
モミで保存すれば、もしかしたら数十年とか保管できるのかもしれません。
脱穀した後に残ったワラは、田んぼに戻します。丁寧に振りまいて写真のような感じにしておきます。この上から米糠をうっすらと撒いておくと、稲藁を分解する微生物の勢いがついて、来春、田植えをする頃にはワラは分解されて分からなくなってしまいます。
その状態から耕さずに、次の稲作が始まるのです。